病院の広報誌(紙)は、地域のコミュニケーション・ペーパーであるというスタンスを忘れてはならない。地元の人たちの共通の関心事は何か、どんな情報を欲しているかを常に意識し、読んでくれる人たちの顔を想像しながら編集を進めることが大切だ。
今回取り上げる藤原ENTクリニック耳鼻咽喉科(長崎市)の広報誌『藤原ENT通信』は、患者さんと地元の人たちを主役にした誌面づくりで、そのなかに、地域と自院との関わりを上手に表現した好例といえる。「親しみやすい」誌面づくりのヒントを読みとっていただければと思う。
活き活きとした写真で臨場感を
「親しみやすさ」を出すためにはビジュアルな誌面づくりが欠かせない。「藤原ENT通信」で使われている写真は、特別凝ったものではないのだが、とにかく活き活きとしているので感心する。患者さん・スタッフ・地元の人たち、いずれも表情がいい。診療現場の臨場感もよく伝わってくる。診療科目の性格上、小児の患者も多いようだが、その子どもたちの写真で綴った「こざる広場」には思わず微笑んでしまう。
一般に、写真の点数が多すぎると「うるさい」感じがしてしまうが、ここでは、シンプルなレイアウトが功を奏している。無理に凝る必要はないという見本ともいえる。これにキャプション(写真ごとに付すコメント)を上手に加えていくとますます生きてくるだろう。キャプションは、登場人物の「せりふ」でもよいし、スタッフからの呼びかけというかたちでもよい。本人やスタッフ以外の読者にも、いったい何なのか、誰なのかが一目でわかるようにする必要がある。
堅い「医療の情報」をやさしくソフトに読ませる
とかく堅くなりがちな「医療の情報」を、藤原久郎院長からのお話というかたち(3号「扁桃腺のこぼれ話」など)で、やさしくソフトに読ませている。ユーモラスな会話形式を用い、またイラストも効果的。ソフトで親しみやすいものになっている。こうしたコーナーでは、ドクターやスタッフの人柄がにじみ出るヒューマンな記事づくりを心がけることが大切である。
制作の過程そのものが広報活動である
「ENT探検団」は、患者さんや関係する人たちをスタッフがインタビュー取材するコーナーである。うどん屋さん・乾物屋さんといった商店主の取材は面白い。店のPR・地域情報・患者さんのフォローにもなっている。取材スタッフとして訪れることでコミュニケーションが深まるに違いない。
このコーナーに限らず、「藤原ENT通信に載せますよ」ということで、写真を撮ったり話を聴いたりといったコミュニケーションができているであろう。つまり、広報誌制作の過程そのものが「広報活動」の重要な一部なのである。
共通の関心事で思いきった特集を
第4号(1997年11月号)で目を惹いたのは、長崎の勇壮な祭り「長崎くんち」の記事である。「町中がくんち一色になり、仕事も手に着かない」というほど地元の人たちにとって最大の関心事である。全4ページの誌面のうち3面にわたり「長崎くんち」が登場、まさに「くんち」特集、「くんち」一色である。ときに、こうした思いきった誌面づくりが「長崎くんち」というテーマで読者の心をしっかりつかむ。大胆な発想に拍手を送りたい。
手づくりとは何か
いまはワープロでも、ちょっとしたDTP機能があるので、最初から最後まで自前で−と、こだわりすぎるきらいがある。コンピュータ出力をカラーコピーするのは、コスト面でも有利とは限らない。ある部数を超えれば、印刷部分だけは印刷業者に任せるのがよいだろう。
「藤原ENT通信」も1、2号まではカラーコピーで制作していたが、3号からは印刷に切り替えている。セールスポイントともいえる写真は、格段にきれいになった。編集までは自前で「手づくり」の味を十分に出し、印刷は業者に−というやり方は賢い選択だったといえよう。「手づくり」のよさとは、すべて自前でこなすことではなく、内容の味わいである。
(「病院広報コンクールから学ぶ」より転載) |